1. ミノサイクリンの効果
6ヵ月以上継続投与され,臨床評価が可能であった症例は,14例(93%)であった。1例(7%)は,副作用の発現のため1ヵ月未満で投与中止された。ランスバリー活動性指標が50%以上低下した著効例は15例中2例(13%),20%以上低下した有効例は6例(40%),20%未満の無効例は6例(40%)であった。著効・有効例は全体の53%であった(図1)。
なお,著効・有効例における臨床症状・所見・検査成績の推移を検討した。
1) 朝のこわぱりの持続時間と握力の推移(図2a,b)
朝のこわばりの持続時間は,ミノサイクリン投与前に比較し,改善傾向を認めたものの有意差は認めなかった(投与前31.8±24.4分→投与後22.4±22.3分)。また,握力は全経過を通じてほとんど変化を認めなかった(192.9土26.9mmHg→194.6±30.OmmHg)。
2) 活動性関節点数の推移(図2c)
ミノサイクリン投与投与前の活動性関節点数は61.3±14.4点であったが,投与2ヵ月目より有意な改善を示し(t<0.05),投与6ヵ月目においては23.0±8.4点と著明に改善した。
3) 赤沈値の推移(図2d)
赤沈値はミノサイクリン投与前では,平均43.4±1.1o/hであった。投与開始1ヵ月目より有意な改善を示し(t<0.05),投与3ヵ月目には21.4土3.4mm/hと改善し,以後低値は持続した。
4) ランスバリー活動性指数の推移(図2e)
以上の4項目より算出したランスバリー活動性指数は投与2ヵ月目より有意な改善を示した(t<O.05)。
5) CRP,血小板,リウマトイド因子,およびヘモグロビン値の推移(図3)
ミノサイクリン投与開始時のCRPの平均値は3.5±O.9mg/dlであった。投与開始1ヵ月目より有意に減少し(t<O,05),投与4ヵ月目においては平均値はO.7±0.2mg/dlと改善を示した。また,血小板(31.9±2.5万/μ1→24.6±1.6万/μ1)は投与1ヵ月目より有意に低下した(t<O.05)。しかし,リウマトイド因子(88.8土23.2IU/ml→71.5±31.3IU/ml),ヘモグロビン値(12.2±0.79/dl→12.5±0.59/dl)は有意な改善を認めなかった。
2. 副作用
副作用のため1ヵ月未満に投与を中止せざるを得なかった症例は15例中1例で全体の約7%であった。また他の2例では副作用を認めたが使用量の減量にて症状が速やかに改善し,投与継続が可能であった。副作用の内訳としては,消化華症状が最も多く,悪心を認めた症例が2例,上腹部痛と眩量を認めた症例が1例あった。そのうち,上腹部痛と眩量を認めた症例はミノサイクリンの投与を中止した。いずれの症状もミノサイクリンの中止,減量により速やかに消失した。また,副作用の発現はミノサイクリン投与開始2週間以内の比較的早期に発現する傾向があった。今回,対象となった15例のうち8例は1年以上の長期継続投与となっているが,肝障害,腎障害,皮疹,間質性肺炎などの発現は認めてはいない。
3. 著効症例の提示
症例:24歳, 女性(RA:stage T, c1ass2)
既往症,家族歴:特記すぺきことなし。
現病歴:平成6年4月より両手指関節などの多発性関節痛と朝のこわぱりが出現し,RAと診断された。日常生活の障害が増悪したため,同年7月当院に紹介入院となった。少量のプレドニゾロン(5mg/day)と注射金剤を開始されたが無効のため,同年9月にプシラミンが開始され,同年10月に退院した。
外来においてプレドニゾロン(7.5mg/day)が増量されたが臨床的改善を認めないため,ブシラミンを無効と判断し,平成7年2月にはサラゾスルファピリジン,同年12月にはD.ペニシラミンが投与された。しかしながら,臨床症状の改善を認めなかったため,ミノサイクリンの投与が検討された。
ミノサイクリン投与前現症:朝のこわばり持続時間60分。握力;右146mmHg。左154mmHg。右第m指PIP関節,両肘関節の腫脹,両手関節・左膝関節・両足関節に腫脹と落痛を認めた。リ缶マトイド結節なし。ミノサイクリン投与前検査成績:血沈82mm/hr。血算は,赤血球413万/mm3,Ht34.2%,Hb11,49/d1と小球性低色素性貧血を認めた。白血球8600/mm3、血小板27.5万/mm3と正常であった。血沈は82mm/hと亢進していた。生化学検査では,肝障害,腎障害ともに認めなかった。血清学的には,CRP9.2mg/dlと顕著な上昇を認め,リウマトイド因子157.7mg/m1,抗核抗体<20,
IgG 2256.4mg/dl, IgA 418.2mg/d1, IgM 319-7mg/d1であった。検尿,便潜血異常なし。
両手関節単純X線写真上では軽度の関節列隙の狭小化を認めるが,骨のびらん,骨破壊像は認めなかった。
臨床経過:
平成8年9月より痔痛・腫脹関節数の増加,日常生活動作の障害を認め,炎症反応等の臨床検査成績の増悪を認めたため,D一ペニシラミシにミノサイクリン200mgの追加・併用療法を開始した(図4)。投与開始1ヵ月目より炎症反応の改善を認め,投与開始3ヵ月目においてはCRP陰性,血沈16mm/hr,リウマトイド因子測定感度以下と,臨床検査成績の著しい改善を
認めた。臨床症状においても投与開始3ヵ月目から痔痛・腫脹関節数の減少,朝のこわばりの持続時間の消失,握力の増強(左右101oHg以上)を認めた。ミノサイクリン投与3ヵ月目よりプレドニゾロンを漸減,さらにD-ペニシラミン,ロキソプロフェンを中止したが,その後も経過良好であるためプレドニゾロンも中止し,現在,ミノサイクリンのみの単独投与で寛解が持続されている。
考 察
ミノサイクリンは,その静菌作用より従来から抗生物質として使用されてきたが,近年,基本骨格としてのテトラサイクリン環構造に由来する抗炎症作用を有することが注目されるようになった7〕。RAに対しての抗炎症作用,抗リウマチ作用に関しては,他のDMARDと同様に必ずしも明確にはされてないが,コラゲナーゼ産生抑制8),活性化酸素除去・産生抑制9・10〕,リンパ球増殖抑制11-14〕,多核白血球遊走能・貧食能抑制15-17〕,ホスホリパーゼA2活性化抑制18)、TNF-α産生抑制19〕などの生物学的活性が関与しているものと推察されている。
RAに対するミノサイクリン療法は,当時RAがマイコプラズマなどの細菌感染が関与するとの病因論に基づいて,1959年にその効果が最初に報告されている20〕。しかしながら,1971年にSkimerら21)によるプラセボとのdouble-blind
studyによりその有効性が否定されて以来, RAに対する治療薬としては使用されていなかった。しかし,近年,その抗炎症作用が注目されるようになりRAに対するミノサイクリンの有用性が再評価されるようになった。1980年後半より欧米においてミノサイクリンの有効性を示す報告がみられるようにようになったが1-6〕,なかでもTn1cyら1〕によるRA患者219例を対象としたプラセボとのdouble-b1ind
studyはその有用性を明らかに示す報告である。以上の臨床治験の結果を総合すると,約50%の症例に有効性が認められており,1年以上の効果の持続が得られている1-4)。さらに副作用については,消化器症状,めまい,耳鳴りといった前庭障害などの臨床的には比較的軽度のものが多く,投与中止の原因となる重篤な副作用は極めて少ないことが明らかにされている1-4〕。また,O'De11ら2),は発症早期RAに対してミノサイクリンを試み,約65%と高い有効率を認めることから,抗リウマチ剤の第一選択薬としての有用性をも提案している。われわれは,以上の欧米の報告例をもとに,本邦において初めてミノサイクリンがDMARD多剤低抗性となったRA患者に有用な薬剤であるかを検討した。
RAに対するミノサイクリンの有効量の設定については,Greenwa1dら8)はRA症例における
in vitro の検討と滑膜組織を用いたin vitro の検討から,ミノサイクリン100mg以上の経口投与によりRA滑膜におけるコラゲナーゼ活性を抑制しうることを証明している。その後のBreedve1dら5)による臨床治験において,RAに対するミノサイクリンの1日投与量は200〜400mgの投与量が有効量と報告されている。また,Klopenburgら6)により,効果,副作用の出現率には明らかな容量依存性を認めないことが示されている。われわれは,従来の報告において最も頻用されている用量である200mg/dayにて治療を行った。
本試験ではミノサイクリンの有効症例において,RAの有用な活動性指標であるCRPや血沈値が投与開始1ヵ月後より有意な改善を示し,効果の発現は比較的早期に現れた。今回,他のDMARDとの比較検討は行っていないが,ランスバリー活動性指数の改善が20%以上の著効・有効例は53%を占め,従来のDMARDの有効性の報告と比較してほぼ同様なものであると思われる22〕。しかし,赤沈,CRPが改善を認めたにもかかわらず朝のこわぱりの持続時間,握力が改善しなかった。このことは,著効・有効例8例のstage別での内訳をみるとstageV(3例)およびstageW(3例)の臨床病期の進行した不可逆性の関節障害を持つ患者が大多数を占めるため,疾患活動性の低下が握力や朝のこわぱりの作用時間などの機能的な改善に反映されなかった可能性が考えられた。実際,StageTの著効例では,朝のこわぱりの持続時間1握力ともに改善を認めている。今回の対象症例は,過去数々のDMARDに対し治療低抗性を示した症例であったため,平均罹病期問12.2年,病期ではstageV,Wが多く,比較的進行したRA患者が大部分を占めていた。欧米においては,O'De11ら2〕の報告に代表されるようにミノサイクリンは軽度または早期のRAに対しては高い有効性を示すとの報告は多いが,われわれの結果は軽度かつ早期の症例に限定されずに有効であることを示している。また,欧米における従来の報告は,規模も大きくミノサイクリンの抗リウマチ剤としての有用性を示すには十分なデータであるが,慢性期RA患者を対象にした検討においても,われわれのように3剤以上の抗リウマチ剤を使用した患者を対象したものはない。提示した症例は,注射金剤,ブシラミン,サラゾスルファピリジン,D一ペニシラミンなどのとくに本邦における代表的な抗リウマチ剤に低抗性を示したが,ミノサイクリンが著明に効果を現し,寛解した症例である。本症例ではD-ペニシラミンとの追加・併用の形でミノサイクリンの投与を開始したが,その有効性は,臨床経過よりD-ペニシラミンとの併用療法よりむしろ,ミノサイクリン単独によるものと結論された。
したがって,ミノサイクリンは欧米人ならびに日本人においても抗リウマチ剤として有効であり,本邦においては多くの抗リウマチ剤に低抗性となった,いわゆる多剤抵抗性RA症例にも使用する価値のある薬剤であると思われる。なお,今回のわれわれの検討では,症例数が少なく,Stage分類とミノサイクリンの有効性との統計学な関連を見出すことはできなかった。しかし,0'Dellら2〕は,発症1年以内のRA患者にミノサイクリンを投与し65%と高い有効性が得られたことを報告していることから,Stageの進行していない早期RA患者でより高い有効性を期待できる可能性があると思われる。今回の患者背景の検討では,有意差を認めなかったが著効・有効例では無効例よりも年齢がやや低く,罹病期問が短い傾向にあった。
RAなどの慢性疾患の治療においては,その薬剤の有効率,作用継続率,および副作用出現率が重要である。今回のわれわれの日本人に対する使用経験において,その有効性は欧米の報告とほぼ同様であり,著効・有効例8例においては1年以上効果持続していることから,作用継続性も十分であると考えられる。とくに問題となる副作用に関しては,消化器症状,眩量を認めたが,いずれも軽症であり,ミノサイクリンの中止,減量により速やかに回復する可逆性のもので,高い安全性を示していた。
以上のことより,ミノサイクリンは抗リウマチ剤として試みる価値のある薬剤であると思われた。さらに安全性が高く,従来の抗リウマチ剤とは異なった作用機序も期待されることから,他の抗リウマチ剤との併用療法としての便用も可能な薬剤であると思われる。
結 論
- 過去3種類以上の抗リウマチ剤に対して無効,効果不十分,副作用にて中止となった治療抵抗性の慢性関節リウマチ患者15症例を対象として,ミノサイクリンの有効性,安全性の検討を行った。
- 有効率は53%で,有効であった8例では他の抗リウマチ剤と同様に臨床症状,臨床検査成績の改善を認めた。
- 副作用出現例を3例認めたが,消化器症状,眩畳など,いずれも軽症で投薬の減量,中止にて速やかに回復した。
- 投与継続1年以上の8症例においては,効果の減弱は認めていない。
- 以上より,ミノサイクリンは日本人RA患者に対しても抗リウマチ剤とレて有用な薬剤であると考えられた。
文 献
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Abstruct-----------
An Evaluation of Efficacy of Minocycline
as am Anti-rheumatic Drug in Patients with
Active and Refractory Rheumatoid Arthritis
Norikuni KAWANAKA, Masahiro YAMAMURA, Hiroo
HASHIMOT0, Hideyuki OKAMOTO, Yoshitaka
MORITA, Masanori KAWASHIMA, Tetsushi AITA,
Akira OKAMOTO and Hirofumi MAKINO
Department of Medicine V, Okayama University
Medical School, Okayama-city
The efficacy and safety of minocycline was
investigated in Japanese patients with rheumatoid
arthritis(RA) who had already received more
than three disease modifying anti-rheumatic
drugs (DMARDs). Minocycline was administered
at 100 mg twice a day to fifteen patients
with active RA. The drug efficacy was evaluated
by the clinical variables including the number
of painful and/or swollen joints, the duration
of morning stiffness, grip strength, the
erythrocyte sedimentation rate, serum concentrations
of C-reactive protein, and the titer of rheumatoid
factor. Three patients experienced adverse
effects such as dizziness and abdominal pain
or discomfort, but on1y one patient with
abdominal pain and dizziness was discontinued.
Fourteen RA patients, who had taken minocycline
for at least 6 months, were subjected to
the clinica1 evaluation. Among them, 8 patients
(54%) showed a significant improvement of
clinical valuab1es for disease activity,
beginning even at 4 weeks of the therapy.
The continued effects were observed in 8
patients with over 1 year-minocycline therapy.
Intriguingly, an active patient with a history
of multiple DMARDs-resistancy showed a marked
favorable response to this drug. The present
study indicates that minocycline may be an
effective DMARD with highly safe performance
for patients with active and refractory RA.
This is the first demonstration of the benefit
of minocycline in the Japanese patients.